はじめに|あなたの会社でも起きていませんか?
「同じAランク評価なのに、なんで私だけ昇給額が少ないんですか?」
人事担当者であれば、一度はこんな声を聞いたことがあるのではないでしょうか。
評価制度はあるのに、昇給に対して「不公平だ」という不満が後を絶たない——その原因の多くは、評価ランクは統一しているのに、職種間の昇給金額設計が画一的すぎることにあります。
この記事では、その課題を解決する「職種別の給与ピッチ設計」という考え方を、具体的な数字と事例を交えて解説します。
読み終えた後には、
そんな状態になっていただけるように構成しています。
人事評価制度の見直しを検討している経営者・人事担当者の方に、ぜひ最後まで読んでいただければ幸いです。
1. なぜ「職種別の給与ピッチ設計」が重要なのか?
同じ評価基準が、逆に不満を生む矛盾
多くの中小企業では、評価ランクを「S・A・B・C・D」などで統一し、各ランクに応じた昇給額を一律に設定しています。たとえば「A評価=15,000円昇給」といった形です。
一見、公平に見えるこの設計。しかし実際には、職種によって業務の難易度・希少性・市場価値が大きく異なるにもかかわらず、同じ金額で処遇しようとすることで、さまざまな歪みが生じます。
職種間の「難易度差」という現実
たとえば、次のような状況を考えてみてください。
- 営業職:新規顧客の開拓、数字へのプレッシャー、外部環境の変化に左右されやすい
- 事務職:社内業務の正確な処理、ルーティンワークが多く、成果の可視化が難しい
どちらも会社にとって欠かせない職種ですが、業務の性質・難易度・市場での希少性が異なります。それを同じ昇給額で評価しようとすると、次のような問題が起きます。
- 営業職:「これだけ頑張っているのに、事務と同じ昇給額は納得できない」
- 事務職:「自分の仕事が低く評価されているように感じる」
両者ともに不満が生じる、という皮肉な結果になるのです。
中小企業ほど深刻な問題
大企業では職種別の賃金テーブルや手当体系が整備されていることも多いですが、中小企業では人事リソースが限られているため、どうしても一律設計になりがちです。その結果、優秀な人材が「正当に評価されていない」と感じ、離職につながるケースが少なくありません。
厚生労働省の調査でも、中小企業における人材定着の課題として「賃金・処遇への不満」は常に上位に挙げられています。職種別の給与ピッチ設計は、この問題への有効な処方箋の一つです。
2. 職種別の給与ピッチ設計|具体的な考え方と手順
「昇給ピッチ」と「号俸」の仕組み
昇給ピッチとは、「1号俸あたりの昇給金額の刻み幅」のことです。
そして、評価ランクごとに号俸がいくつ上がるか(号俸増減数)が決まっており、この2つを掛け合わせることで昇給額が決定されます。
まず、評価ランクと号俸増減の対応は全職種共通で以下のように設定します。
| 評価ランク | 号俸増減 |
|---|---|
| S | +5号俸 |
| A | +3号俸 |
| B | +2号俸 |
| C | +1号俸 |
| D | ±0号俸 |
この号俸増減数は全職種で統一します。職種によって変えるのは「1号俸あたりのピッチ金額」です。
設計の基本構造
給与ピッチ設計の基本は次の3要素で構成されます。
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| 評価ランク | S / A / B / C / D など(全職種共通) |
| 号俸増減数 | 評価ランクごとに決まる号俸の増減(全職種共通) |
| 1号俸のピッチ金額 | 1号俸あたりの昇給額(職種によって異なる) |
この仕組みにより、「昇給額 = 号俸増減数 × 1号俸のピッチ金額」で計算されます。
職種別ピッチ設計の具体例
以下は、同じA評価(号俸+3)でも、職種によってピッチ金額を変えた例です。
| 職種 | 評価ランク | 号俸増減 | 1号俸のピッチ | 昇給額 |
|---|---|---|---|---|
| 営業職 | A | +3 | 5,000円 | 15,000円 |
| 事務職 | A | +3 | 2,500円 | 7,500円 |
| 技術職 | A | +3 | 4,000円 | 12,000円 |
| 管理職 | A | +3 | 6,000円 | 18,000円 |
S評価(号俸+5)の場合も同様に計算されます。
| 職種 | 評価ランク | 号俸増減 | 1号俸のピッチ | 昇給額 |
|---|---|---|---|---|
| 営業職 | S | +5 | 5,000円 | 25,000円 |
| 事務職 | S | +5 | 2,500円 | 12,500円 |
ポイントは、号俸増減数は全職種で統一しつつ、1号俸あたりのピッチ金額を職種特性で変えるという点です。「評価の物差しは同じ」という公平感を保ちながら、職種間の難易度・市場価値の差を昇給額に反映できます。
設計ステップ
ステップ1:職種・職群の分類
まず、自社の職種を「営業系・事務系・技術系・管理系」などのグループに分類します。職種が多い場合は、業務の性質(対外折衝型・内部サポート型・専門技術型など)で整理すると設計しやすくなります。
ステップ2:職種別の市場価値・難易度を評価
各職種の市場賃金相場、業務難易度、希少性(採用しにくさ)を整理します。求人媒体の相場データや、業界団体の賃金統計なども参考になります。
ステップ3:号俸増減数の設定(全職種共通)
評価ランクごとの号俸増減数を決めます。これは全職種で統一するルールです。
例:S=+5、A=+3、B=+2、C=+1、D=±0
ステップ4:職種ごとの1号俸ピッチ金額を設定
基準職種(事務職など)の1号俸あたりの金額を起点に、各職種の倍率を決めます。
例:事務=2,500円(基準)、技術=4,000円(×1.6)、営業=5,000円(×2.0)、管理職=6,000円(×2.4)
ステップ5:シミュレーションと調整
全体の人件費予算に対して、シミュレーションを行い、無理のない範囲で調整します。
3. 事例・実践例|職種別ピッチ設計を導入した企業の変化
事例①:製造業(従業員50名)
導入前の課題
製造現場の技術職と、バックオフィスの事務職に対して、同じ昇給テーブルを適用していた。技術職からは「専門スキルを学んでも昇給が変わらない」という不満が続出し、熟練技術者の離職が増加。
導入後の変化
職種別ピッチ設計を導入し、技術職のピッチを事務職の1.8倍に設定。同時に、評価基準に「技術習得レベル」を加えることで、昇給と成長が連動するように変更。
結果
技術職の「スキル習得意欲」が向上し、自発的に資格取得に取り組む社員が増加。導入1年後の技術職の離職率が前年比で約40%減少。
事例②:サービス業(従業員30名)
導入前の課題
営業・接客・事務・管理の4職種に同一の昇給テーブルを適用。営業職からは「自分たちが会社の売上を作っているのに報われない」という声が上がっていた。一方で、事務職には「評価の基準がよくわからない」という不満も。
導入後の変化
職種ごとにピッチ金額を設計し直し、評価基準も職種別に再定義。「自分の職種で何が評価されるか」が明確になったことで、社員の納得感が大幅に向上。
結果
半期評価の後に実施した社員アンケートで、「評価制度に納得している」という回答が前回比30ポイント以上向上。採用面接でも給与制度の説明が説得力を持つようになり、内定承諾率も改善。
4. よくある誤解・注意点
誤解①「職種によって昇給額を変えると不公平になる」
これは最も多い誤解です。
「同じ評価なのに昇給額が違う=不公平」と感じる方もいますが、実は逆です。難易度・市場価値が異なる職種に同じ昇給額を適用することのほうが、実態として不公平です。
重要なのは、「なぜピッチが異なるのか」という設計の根拠を社員に説明できること。根拠が明確であれば、社員の納得感は高まります。
誤解②「ピッチを変えれば、それだけで問題が解決する」
給与ピッチの設計はあくまで処遇体系の一部です。評価基準・評価プロセス・フィードバックの質が伴わなければ、ピッチ設計だけでは不満は解消されません。評価制度全体の整合性を取ることが前提です。
誤解③「小規模企業には複雑すぎる」
職種数が少ない企業ほど、シンプルに設計できます。たとえば2〜3職種のみであれば、ピッチ金額の差をつけるだけでも大きな効果が出ます。複雑な仕組みが必要なわけではありません。
注意点:既存社員への説明と移行プロセス
新しいピッチ設計を導入する際は、既存社員への丁寧な説明と移行期間の設定が欠かせません。特に「これまでより昇給額が下がる職種」がある場合は、激変緩和措置(一定期間は従前のルールを適用するなど)を検討しましょう。
まとめ
この記事でお伝えしたポイントを整理します。
- 職種によって業務難易度・市場価値は異なるため、同一の昇給テーブルを適用すると不満が生じやすい
- 職種別の給与ピッチ設計とは、評価ランクごとの号俸増減数は全職種で統一しつつ、1号俸あたりのピッチ金額を職種特性に応じて変える手法
- 号俸増減数を統一(S+5・A+3・B+2・C+1・D±0)し、ピッチ金額を変えることで、公平感を保ちながら難易度差を処遇に反映できる
- 設計の際は「号俸増減数の設定 → 基準ピッチ金額の決定 → 職種別倍率の設定 → シミュレーション」のステップで進める
- 導入時は設計根拠の社員説明と移行プロセスの設計が成否を分けるポイント
人事評価制度は、一度作ったら終わりではなく、会社の成長・人員構成の変化に合わせて定期的に見直すことが大切です。まずは「自社の職種間に、適切な昇給差が設計されているか?」という視点で、現状を確認してみてください。
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著者プロフィール
組織・人材開発コンサルタント
中小企業を中心に、組織設計・リーダー育成・採用戦略の支援を行う。製造業・IT・小売・サービス業など多業種での支援実績を持つ。「現場で使える制度設計」をモットーに、評価制度の構築から社員への浸透・定着まで、一貫してサポート。
