クレドやパーパスを作ったのに、評価シートには一行も反映されていない。この記事は、その状態にある従業員30〜150名の会社の経営者に向けて書いています。結論を先に書きます。パーパスを評価に連動させるコツは、理念を評価項目に「足す」ことではありません。等級ごとの行動に「翻訳する」ことです。ここを取り違えると、項目だけ増えて誰も点をつけられないシートができあがります。
完成形は、評価シートの1行が「動詞」で書かれている状態
まず、目指すゴールの形を見せます。連動が成功している会社の評価シートには、こう書かれています。
- × 「当社のパーパスを体現している」
- ○ 「顧客から仕様変更の相談を受けたとき、自部門の都合より先に相手の納期影響を確認して報告している」
違いは2つです。1つ目は、主語が「人柄」ではなく「行動」になっていること。2つ目は、いつ・誰に対して・何をしたかという場面が特定されていること。この2つが揃うと、上司は評価に迷いません。「その行動を今期見たか、見なかったか」を答えればいいからです。
パーパスという言葉は、2019年に米国のビジネス・ラウンドテーブルが株主第一主義からの転換を宣言して以降、日本でも急速に広がりました。ただし大企業が語るパーパスは、社会課題や環境保全といった大きな主語で書かれています。従業員80名の会社がその文章をそのまま評価シートに貼っても、現場の誰も自分の仕事と結びつけられません。必要なのは翻訳作業です。
手順1|パーパスを「社内で実際に起きる場面」に3つ分解する
最初にやるのは、パーパスの文章を場面に割ることです。会議室でやります。所要時間は90分、参加者は経営者と部門長3〜4名で十分です。
問いはひとつだけ。「この一文が守られている瞬間、社内では具体的に何が起きていますか」。抽象論に流れそうになったら「先月それが起きた実例を1つ挙げてください」と差し戻します。実例が出ない項目は、まだ翻訳できていない証拠です。
場面は3つに絞ります。5つ以上出すと、次の等級展開で必ず破綻します。判断基準は「その場面が、全部門で年に3回以上起きるか」。営業部でしか起きない場面は、全社共通の評価項目には向きません。
手順2|等級ごとに期待水準を4段階で書き分ける
同じ場面でも、入社2年目に求める行動と、部下を10名持つ課長に求める行動は違います。ここを分けないまま全社共通の一文で運用すると、若手には厳しすぎ、管理職には甘すぎる項目になります。
等級が7段階ある会社でも、行動水準は4段階で書けば足ります。「担当」「一人前」「指導」「変革」の4つです。
| 水準 | 書き方の型 |
|---|---|
| 担当 | 言われた場面で、教わったとおりに実行している |
| 一人前 | 自分で場面を見つけて、判断して実行している |
| 指導 | 他のメンバーが実行できるよう、助言や仕組み化をしている |
| 変革 | その行動が起きやすくなるよう、ルールや業務フロー自体を変えている |
等級と行動水準の対応が曖昧なままだと、この4段階は機能しません。等級の定義そのものが揺れている場合は、先にそちらを整える必要があります。
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手順3|評価ウェイトは全体の20%までに抑える
ここが最も間違えやすい箇所です。パーパスを大事にしたい経営者ほど、評価ウェイトを40%、50%と重くしたくなります。やめてください。
理由は3つあります。第一に、行動評価は業績評価より観察コストが高く、上司が見きれる量に限りがあります。第二に、ウェイトが重いと社員は「点になる行動」を演じ始めます。第三に、賞与や昇給への影響が大きくなるほど、評価者は無難な中央値をつけるようになり、差がつかなくなります。
推奨は10〜20%です。従業員50名規模なら、評価項目全体を10項目とすると、パーパス由来の行動項目は2項目が上限になります。少ないと感じるかもしれませんが、2項目でも全社員が毎期その言葉を目にすることになります。年2回の評価面談で、全員が2回ずつ理念の話をする。それが浸透の実体です。
そもそも制度は最初から完璧を目指さないほうが動きます。
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手順4|半期に1度、行動事実を3件集める運用にする
制度を作っても、運用の器がなければ評価はできません。必要なのは1つだけです。上司が半期の間に、部下ごとに行動事実を3件メモしておくこと。
形式は問いません。1on1のメモでも、Slackのメモ欄でも構いません。書く内容は「いつ・どの場面で・何をしたか」の3点だけ。評価もコメントも不要です。半期で3件なら、1か月に1件も書かない計算になります。この程度の負荷にしないと、管理職は続けません。
期末に、上司はそのメモ3件を見ながら4段階のどこに当たるかを判断します。メモがゼロだった部下は、評価不能ではなく「担当水準」として扱います。見えていないのは本人の責任ではなく、上司の観察不足だからです。この扱いを最初に決めておくと、期末の紛糾がなくなります。
記入例|製造業・従業員80名の会社が作った1枚
パーパスが「地域のものづくりを止めない」だった場合の展開例です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場面 | 設備トラブルや納期遅延が発生したとき |
| 担当 | 異常に気づいた時点で、30分以内に上長へ報告している |
| 一人前 | 報告と同時に、顧客側の生産計画への影響を自分で確認して伝えている |
| 指導 | 同種のトラブル発生時に他メンバーが同じ動きを取れるよう、手順を共有している |
| 変革 | そのトラブル自体が起きない設備点検サイクルを設計し、定着させている |
| ウェイト | 評価全体の15%(10項目中1.5項目相当) |
この1枚を作るのに、その会社では3回の会議、合計5時間かかりました。長いと感じるかもしれませんが、この5時間を惜しんで抽象的な項目のまま走らせた会社は、1年後にほぼ例外なく運用をやめています。
失敗の大半は「評価項目に足す」ところで起きている
福岡を拠点に、30〜150名規模の会社の等級と評価制度を作り直してきた立場から見ると、パーパス連動でつまずくパターンはほぼ3つに集約されます。
1つ目は、既存の評価シートに項目を1行足して終わりにするパターン。「理念の体現度」という項目が最後に1行追加され、全員に3点(5段階の真ん中)がつきます。翻訳作業を飛ばした結果です。
2つ目は、経営者だけで文言を作るパターン。言葉としては美しいのですが、現場が「そんな場面はうちの部署では起きない」と感じた瞬間に形骸化します。手順1に部門長を入れるのは、この事態を防ぐためです。
3つ目は、評価はしたが処遇に何も影響させないパターン。「参考評価」として運用すると、2期目から誰も真面目に書かなくなります。ウェイトは軽くていい。ただしゼロにはしない。この線引きが運用の生死を分けます。
なお、パーパスの言葉そのものがまだ固まっていない段階であれば、評価連動より先にやることがあります。
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公開前チェックリスト|7項目
作った評価項目を運用に乗せる前に、以下を確認してください。
- 場面は3つ以内に絞られているか
- 各項目が「動詞」で終わっているか(「〜という意識を持つ」は不可)
- 4段階の水準が、等級のどこに対応するか明記されているか
- 評価ウェイトは20%以下に収まっているか
- 上司が半期で集めるべき行動事実の件数を決めたか
- メモがゼロだった場合の扱いを事前に決めたか
- この項目で高評価がついた社員に、処遇上の差が実際に生まれるか
7項目のうち1つでも「いいえ」があるなら、走らせる前に戻ったほうが安全です。制度は一度動かすと、途中で止めるコストのほうが高くつきます。
翻訳を誰がやるかで、結果は変わる
ここまでの4ステップは、自社だけでも実行できます。実際、部門長が現場の言葉を持っている会社ほど、外部を入れずに作ったほうが良いものができます。
一方で、ウェイトの決め方、既存の等級・賃金テーブルとの整合、評価者の目線合わせをどこまで作り込むかは、その会社が今どのフェーズにいるかで判断が分かれます。制度が初めての会社と、3回目の作り直しをする会社では、同じ手順でも力を入れるべき場所が違います。自社がどちらなのか判断がつかないときは、外から一度見てもらう価値があります。
パーパスは、額に入れて壁に貼った時点では何も起きません。半期に一度、上司と部下が同じ言葉を使って自分の仕事を振り返る。そこまで運んで、ようやく経営の道具になります。
