人事評価コメントは「事実→評価→影響→次期への期待」の4要素で書くと、評価者による差が出にくくなります。この記事では、期末評価を前に評価者向けの手引きをつくる人事担当者に向けて、評価ランク別・職種別・場面別の例文50本と、労務リスクになる表現の避け方をまとめています。
30〜150名規模の会社で評価者研修を行うと、添削の最初に出てくるコメントはほぼ決まっています。「積極性が感じられた」「よく頑張っていた」「引き続き期待したい」の3つです。間違いではありませんが、本人は次に何をすればいいのかがわかりません。
例文は1本100〜150字、4要素がそろった形です。数字と業務名を差し替えて、評価者に配ってください。
評価コメントの役割は「記録・行動変容・説明責任」の3つ
評価コメントには3つの役割があります。
- 評価の根拠を記録に残す:なぜその評価になったのかを、1年後に誰が読んでもわかる形で残します。
- 本人の行動を変える:次の期に何を続け、何を変えるかを本人に渡します。
- 処遇の説明責任を果たす:昇給・賞与・昇格の結果を説明する材料になります。
「積極性が感じられた」は、3つのどれも果たせていません。3つを1本のコメントで満たすための型が、次の4要素です。
評価コメントは「事実→評価→影響→次期への期待」の4要素で書く
順番まで固定すると、評価者が変わってもコメントの読みやすさがそろいます。
| 要素 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 事実 | 期間中の行動・数字・成果物。誰が見ても同じ内容になるもの | 新規提案を期中に4件行った |
| 評価 | 期待水準(目標や等級の要件)と比べて、上か下か | 期初目標の2件を上回り、期待以上 |
| 影響 | その行動がチーム・顧客・会社に何をもたらしたか | 2件が受注し、課の新規売上目標の達成に寄与 |
| 次期への期待 | 次の期に続けること・伸ばすこと・変えること | 提案資料の構成を課内に共有する |
「積極性が感じられた」を4要素で書き直すと、こう変わる
同じ社員について書いた2つのコメントを比べてみてください。
書き直す前
「新規提案に積極的に取り組み、積極性が感じられた。今後も期待したい。」
書き直した後
「新規提案を期中に4件行いました(事実)。期初目標の2件を上回っており、期待水準を超える動きと評価します(評価)。うち2件が受注につながり、課の新規売上目標の達成に寄与しました(影響)。次期は提案資料の構成を課内に共有し、若手2名の提案件数を増やすことを期待します(期待)。」
書き直した後のコメントには、評価の「判定基準」が埋め込まれています。基準がないまま書くと、評価の部分は「よく頑張った」という感想に戻ってしまいます。
評価者がいちばん抜かしやすいのは「影響」
影響がないと、同じ「目標達成」でも、チームを助けた達成なのか、周りを消耗させた達成なのかが区別できません。評価者には「その結果、誰が助かったか」を1文足すよう伝えてください。
評価ランク別の例文25本。いちばん書きにくいのはB評価
ここでは5段階評価を次の定義で使います。
| ランク | 定義 | コメントの重心 |
|---|---|---|
| S | 期待を大きく上回る | 成果の再現と横展開 |
| A | 期待を上回る | 上回った1点と、次の一段 |
| B | 期待通り | 満たした根拠と、Aとの差 |
| C | 期待をやや下回る | 足りなかった点と原因 |
| D | 期待を大きく下回る | 具体的な行動と確認の時期 |
S評価(期待を大きく上回る)の例文5本
成果をほめて終わらせず、他のメンバーが再現できる形にすることを次期の期待に書きます。
- 例1(営業)期初目標の新規受注1,200万円に対し、1,850万円(達成率154%)を受注しました。期待水準を大きく上回る成果です。うち2社は年間取引の見込みがあり、来期の売上の土台にもなっています。次期は新規開拓の手順を資料にまとめ、課内の若手3名が同じ動きをできる状態をつくることを期待します。
- 例2(事務)請求業務の手作業を見直し、月末の締め作業を5営業日から2営業日に短縮しました。自ら課題を見つけ、改善を最後までやり切った点は、現等級の要件を大きく超えています。経理部全体の残業は月平均12時間減りました。次期は同じ手法を給与計算業務にも広げてください。
- 例3(製造)担当ラインの不良率を2.1%から0.8%まで下げました。原因を段取り替えの手順に絞り込み、作業標準書を改訂した点を高く評価します。手直しの工数は月あたり約40時間減り、納期遅れもゼロになりました。次期は同じ分析の手法を他の2ラインに展開することを期待します。
- 例4(育成)中途入社2名のOJT(職場で実務を通じて教える指導)を担当し、通常6か月かかる独り立ちを4か月で実現しました。業務手順を動画にまとめ、質問に答える時間を減らした工夫は、指導役として期待を大きく上回ります。課の繁忙期の残業も前年より抑えられました。次期はこの動画教材を部の標準にする役割をお願いします。
- 例5(総評)本期は担当業務の成果に加え、部署をまたいだ改善で会社全体に貢献した半年でした。特に在庫管理ルールの統一は、3部署の棚卸し時間を合計30%削減しています。上位等級の役割をすでに果たしていると判断し、S評価とします。次期は昇格を視野に入れ、後任候補の育成を並行して進めてください。
A評価(期待を上回る)の例文5本
A評価は「どこが期待を上回ったか」を1点に絞って書きます。
- 例6(営業)既存顧客の深耕に注力し、担当30社のうち8社で取引品目を増やしました。期初目標の5社を上回っています。追加受注は合計420万円で、課の売上目標の達成率を3ポイント押し上げました。次期は新規開拓にも時間を配分し、既存と新規の比率を7対3にすることを期待します。
- 例7(総務)社内問い合わせの窓口を一本化し、対応記録を共有フォルダで管理する仕組みをつくりました。期待されていた運用の範囲を超え、仕組みまで整えた点を評価します。同じ質問への重複対応が減り、総務課の対応時間は週5時間ほど短くなりました。次期はよくある質問を社内ポータルに公開してください。
- 例8(技術)担当システムの改修を予定より2週間早くリリースし、リリース後の障害もゼロでした。テスト項目を事前にチームで洗い出した進め方が、期待以上の品質につながっています。利用部門からの修正依頼も前回の改修の半分以下でした。次期はテスト設計の考え方を後輩に教える役割も担ってください。
- 例9(販売)顧客アンケートの満足度で、店舗平均4.1点に対し4.6点を得ました。期待を上回る結果です。特に待ち時間の声かけを徹底したことで、クレームは前期の6件から1件に減りました。次期は声かけの具体例を朝礼で共有し、店舗全体の底上げに関わることを期待します。
- 例10(総評)本期は目標5項目のうち4項目で期待を上回りました。とくに取引先との価格交渉で原価を年間約180万円抑えた点は、部の利益改善に直結しています。一方で、上司への報告の遅れが2回あった点は次期の改善点です。総合してA評価とします。次期は交渉の進め方を課内で共有できる形にしてください。
B評価(期待通り)の例文5本。「特に問題なし」で終わらせない
評価者が最も手を止めるのがB評価です。書くことがないように見えるため、「特に問題なし」の1行で終わりがちです。ところが、5段階評価では全体の5〜6割がBに入る会社も珍しくありません。最も多くの社員の処遇が、根拠の書かれないまま決まることになります。
B評価のコメントには、次の3点を必ず入れます。
- 期待水準を満たしたと判断した根拠(どの目標・どの要件を満たしたか)
- 安定して続けたこと自体の価値(ミスなく回したことが誰の役に立ったか)
- A評価に届くために足りなかった1点
B評価が書けない原因の多くは、期初の目標に「何ができたら期待通りか」が書かれていないことにあります。
あわせて読みたい期初の目標に「期待通り」の判定基準を書き込む、職種別の目標設定の例文
- 例11(事務)受発注処理を月平均350件、期を通じてミスなく処理しました。正確に処理し続けることが本期の期待水準であり、それを満たしています。営業担当が顧客対応に集中できたのは、この処理が安定していたからです。A評価に向けては、処理手順の中で時間のかかる工程を1つ見つけ、改善案を出すことを期待します。
- 例12(営業)売上目標2,400万円に対し、2,450万円(達成率102%)で着地しました。期待水準を満たしています。四半期ごとの売上の振れ幅が小さく、課の数字の見通しを立てやすくしてくれました。次期の課題は新規顧客の比率です。新規からの売上を全体の2割まで伸ばせれば、A評価の水準に届きます。
- 例13(製造)担当工程で求められる品質と生産量を、期を通じて満たしました。急な欠勤で他のメンバーに穴埋めを頼むこともなく、ラインの安定した稼働に貢献しています。次期は他工程の作業を2つ習得し、繁忙期に応援に入れる状態をつくることを期待します。多能工化が進めば、A評価の対象になります。
- 例14(技術)割り当てられた保守案件12件を、すべて期限内に完了しました。期待通りの水準です。問い合わせへの回答も丁寧で、利用部門からの評価も安定しています。一方で、改善提案は本期0件でした。次期は保守の中で気づいた課題を、四半期に1件は提案として上げてください。
- 例15(総評)本期は目標4項目のすべてで期待水準を満たし、B評価とします。担当業務を任せきれる安定感は、課の運営の前提になっています。A評価との差は、自分の担当を超えた動きがまだ少ない点です。次期は課の改善テーマを1つ担当し、周りを巻き込んで進める経験を積んでください。
C評価(期待をやや下回る)の例文5本
C評価のコメントは、足りなかった事実と、その原因の見立てをセットで書きます。
- 例16(営業)売上目標2,000万円に対し、1,640万円(達成率82%)でした。期待水準をやや下回っています。訪問件数は目標を満たした一方、提案から受注に進んだ割合が前期の25%から15%に下がっており、ここが主な原因と見ています。次期は提案前に上司と内容を確認する時間を月2回設け、受注率の回復を目指してください。
- 例17(事務)月次報告の提出期限を、6回中3回超過しました。期待水準をやや下回ります。データの集計に時間がかかり、確認が後回しになったことが原因です。報告を受け取る部門の会議資料づくりにも遅れが出ていました。次期は締め日の3営業日前に集計を終える段取りを一緒に決め、毎月の面談で進み具合を確認します。
- 例18(製造)作業標準の手順を省略したことによる不良が、本期に4件ありました。期待水準をやや下回ります。いずれも繁忙期の後半に集中しており、急ぎの場面で手順を飛ばす傾向が見られます。次期は忙しい時期こそ手順書のチェック欄を使い、不良ゼロの月を3か月続けることを目標にしてください。
- 例19(管理職)課の目標達成率は91%で、期待水準をやや下回りました。期中に部下2名の業務量が偏り、うち1名は残業が月45時間を超えた月があります。業務配分の見直しが遅れたことが主な原因です。次期は月初に課員全員の業務量を一覧にし、偏りがあれば週内に再配分することを期待します。
- 例20(総評)本期は目標5項目のうち2項目が期待水準に届かず、C評価とします。担当業務の正確さは維持できている一方、新しい業務の習得が予定より遅れました。本人の努力だけでなく、習得の計画と支援が不十分だった面もあると考えています。次期は習得計画を一緒につくり、月1回の個別面談で進み具合を確認します。
D評価(期待を大きく下回る)の例文5本
D評価のコメントは、本人が読んだあとに「では何をすればいいか」がはっきりわかることを最優先にします。
- 例21(営業)売上目標1,800万円に対し、900万円(達成率50%)でした。期待水準を大きく下回っています。月間の訪問件数が目標40件に対して平均15件にとどまり、商談の母数が足りていません。次期は週10件の訪問を最低ラインとし、毎週金曜に件数と内容を上司と確認します。3か月後の面談で改めて進み具合を評価します。
- 例22(事務)本期は入力ミスによる請求金額の誤りが7件あり、うち2件は取引先からの指摘で発覚しました。期待水準を大きく下回ります。ダブルチェックの手順が守られていなかったことが原因です。次期は入力後のチェックリスト記入を必須とし、月末に上司がチェックリストと請求データを照合します。
- 例23(製造)保護具の着用漏れで、本期に3回指導を受けました。安全に関わる事項のため、期待水準を大きく下回ると判断します。次期は作業開始前の指差し確認を毎回行い、班長が週1回実施状況を確認します。着用漏れゼロを6か月続けることを目標とします。
- 例24(管理職)部下の目標設定面談を期限までに実施できず、5名中3名の目標確定が1か月遅れました。期待水準を大きく下回ります。自身のプレイヤー業務をマネジメント業務より優先したことが原因です。次期は面談日程を期初の週に確定させ、人事部が毎月実施状況を確認します。
- 例25(総評)本期は目標4項目のすべてで期待水準を下回り、D評価とします。一方で、後半の2か月は報告の頻度が上がり、改善の兆しも見えています。次期は期初に決める3つの行動目標について、毎月の面談で達成状況を確認します。改善が確認できた時点で、中間評価に反映します。
職種別の例文15本。職種ごとに「事実」として書く材料が違う
営業は数字があるので書きやすく、事務や技術は「何を事実として書けばいいのか」で手が止まります。この差が、評価の甘辛(評価者や職種によって評価が甘くなったり辛くなったりすること)を生む原因の1つです。
| 職種 | 「事実」に使える材料 |
|---|---|
| 営業 | 売上・粗利、受注率、訪問件数、新規と既存の比率 |
| 事務・管理 | 処理件数、ミスの件数、締め日の遵守、改善で短縮した時間 |
| 製造・現場 | 不良率、生産量、段取り時間、安全ルールの遵守 |
| 技術 | リリース数、障害件数、期限の遵守、レビューの件数 |
| 管理職 | 課の目標達成率、部下の育成、離職、業務配分 |
「事実」の材料を職種ごとに決めておくと、数字の少ない職種でも4要素のコメントが書けます。評価のぶれそのものは、評価基準の側で調整します。
あわせて読みたい営業職と非営業職で評価の甘辛がずれるときの、職種別の基準の直し方
営業職の例文3本
- 例26(営業・A評価)担当する既存顧客45社を毎月訪問し、期中の取引終了は1社にとどめました。前期の4社から改善しており、期待を上回る結果です。取引が続いたことで、課の売上の土台が安定しました。次期はこの訪問の進め方を、新任の担当者2名に引き継いでください。
- 例27(営業・B評価)新規の見込み客リストを毎月20件作成し、目標どおり商談につなげました。期待水準を満たしています。作成したリストは課内でも共有され、他のメンバーのアポイント取得にも使われています。次期は商談から受注までの進め方を磨き、受注率20%を目指してください。
- 例28(営業・C評価)粗利率が目標の30%に対し24%でした。売上は目標に届いた一方、値引きでの受注が増えたことが原因です。利益面では期待水準をやや下回ります。次期は値引きの判断を上司と事前に相談するルールを守り、粗利率を目標の水準に戻すことを期待します。
事務・管理職種の例文3本
- 例29(経理・A評価)月次決算の締めを、前期の10営業日から7営業日に短縮しました。期待を上回る改善です。経営会議に前月の数字を1週間早く出せるようになり、資金繰りの判断が早まりました。次期は締めの手順を文書にまとめ、担当者が交代しても7営業日を保てる状態をつくってください。
- 例30(人事・総務・B評価)入退社の手続き28件を、すべて期限内にミスなく処理しました。期待水準を満たしています。手続きの遅れによる社員からの問い合わせもありませんでした。次期は手続きの手順書を更新し、担当者が不在でも回る状態にしてください。
- 例31(営業事務・C評価)見積書の作成で、承認前の金額を取引先に送付したことが2回ありました。期待水準をやや下回ります。承認の確認を口頭で済ませていたことが原因です。次期は承認済みの印がない見積書は送付しない手順に改め、月末に上司と送付記録を確認します。
製造・現場職種の例文3本
- 例32(製造・A評価)段取り替えの時間を、平均45分から30分に短縮しました。期待を上回る改善です。工具の置き場所を見直したことで、他の作業者も同じ時間で段取りできるようになりました。ライン全体の稼働時間は月あたり約20時間増えています。次期はこの改善を工場の標準手順に反映してください。
- 例33(製造・B評価)担当工程の生産量を、毎月の計画どおりに達成しました。期待水準を満たしています。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の点検でも、本期は指摘ゼロでした。次期は新人1名の作業指導を担当し、指導する側の経験を積むことを期待します。
- 例34(製造・C評価)日報の記入漏れが月平均5件あり、設備の異常の発見が遅れた日が1日ありました。期待水準をやや下回ります。作業終了間際にまとめて記入していたことが原因です。次期は作業の区切りごとに日報を記入し、班長が毎日終業時に確認します。
技術職の例文3本
- 例35(技術・A評価)社内の問い合わせ管理の仕組みを、既存のツールを組み合わせて構築しました。期初の計画になかった取り組みで、期待を上回ります。対応状況が一覧で見えるようになり、問い合わせの対応漏れは月3件からゼロになりました。次期は運用の手順を情報システム課の標準として文書化してください。
- 例36(技術・B評価)コードレビュー(他のメンバーが書いたプログラムの確認)を月平均20件担当しました。期待水準を満たしています。指摘の理由を丁寧に説明しており、若手の修正が早くなっています。次期はよく出る指摘を一覧にまとめ、チームのレビュー基準として共有することを期待します。
- 例37(技術・C評価)担当機能のリリース後に、利用部門の業務が止まる障害が2件発生しました。期待水準をやや下回ります。いずれもテスト項目に例外的な入力のケースが含まれていなかったことが原因です。次期はテスト項目をリリース前にチームでレビューする工程を入れ、障害ゼロを目標にしてください。
管理職の例文3本
- 例38(管理職・A評価)課の目標達成率は108%で、期待を上回りました。部下5名全員が個人目標で期待水準以上の評価となり、期中の離職もゼロです。月1回の個別面談を全員に続けたことが、部下の目標への納得感につながっています。次期は次の課長候補を1名決め、育成計画を立ててください。
- 例39(管理職・B評価)課の目標を達成率100%で着地させました。期待水準を満たしています。部下の業務量の偏りにも早めに気づき、期中に2回の再配分を行いました。次期は課の数字の管理に加え、部下が自分で改善案を出せる場を月1回設けることを期待します。
- 例40(管理職・C評価)課の業績目標は達成した一方、部下2名が期中に退職しました。退職前の面談の記録がなく、兆候を把握できていなかった点は期待水準をやや下回ります。次期は部下全員と月1回の個別面談を行い、その記録を人事部と共有してください。
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場面別の例文10本。評価者が手を止める6つのケース
昇格を見送った人、異動したばかりの人、休職から戻った人。評価者が手を止めるのは、決まってこうした場面です。迷う原因の多くは書き方ではなく、評価期間の扱いなどのルールが制度側で決まっていないことにあります。
あわせて読みたい完璧を目指さず「70点」で評価制度を動かし始める、制度づくりの手順
昇格を見送った人の例文2本
見送りの理由は「上位等級の要件のどれが足りなかったか」で書きます。「まだ早い」「時期尚早」は理由になりません。
- 例41現等級での成果はA評価の水準にあり、担当業務は安定して任せられます。一方、主任等級の要件である「後輩の指導」は、本期に機会が少なく、判断材料がそろいませんでした。そのため今回は昇格を見送ります。次期は新人1名の指導を担当してもらい、その結果を次回の昇格判定の材料にします。
- 例42課題を解決する力は、上位等級の水準に近づいています。ただし、係長等級で求める「課の目標に対する数字の管理」について、本期は月次の報告が不定期でした。この1点を理由に今回は見送ります。次期に月次報告を毎月期限内に出せれば、昇格の要件を満たすと考えています。
異動直後で評価期間が短い人の例文2本
異動後の期間が短い場合は、「どの期間の、何を評価したか」をコメントに明記します。
- 例43本期は期中の7月に営業部から企画部へ異動したため、企画部での評価期間は3か月です。前半の営業部での成果は前任の上司からの情報をもとに、後半は企画部での業務をもとに評価しました。新しい業務の習得は計画どおりに進んでおり、B評価とします。次期は企画部の目標に沿った成果で評価します。
- 例44異動後2か月のため、本期は新しい業務の習得状況を中心に評価しています。業務手順の習得は予定より早く、2か月目から単独で月次集計を担当しています。期待水準を満たしており、B評価とします。次期は集計結果から課題を読み取り、改善案を1件出すことを期待します。
休職から復帰した人の例文2本
休職の理由や病名、治療の状況はコメントに書きません。病歴などの健康に関する情報は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」にあたります。評価シートのように複数の人が読む書類には載せないのが原則です。評価の対象は、復帰後に実際に勤務した期間の行動と成果に限ります。
- 例45本期は復帰後の4か月間を評価対象としています。段階的に業務量を戻す計画のもと、決められた範囲の業務を期限内にこなしました。計画に沿った業務遂行ができており、期待水準を満たしています。次期も上司と業務量を相談しながら、担当範囲を少しずつ広げることを期待します。
- 例46復帰後の3か月間、短時間勤務の中で請求書の発行業務を担当しました。処理件数は勤務時間に見合った水準で、ミスもありませんでした。期待水準を満たしています。次期は請求業務に加えて、入金の確認業務を1つ引き受けることを目標とします。
中途入社1年目の人の例文1本
入社時に合意した期待水準と比べて書き、前職との比較は書きません。
- 例47入社時に合意した「半年で既存顧客20社を引き継ぐ」という目標に対し、期末時点で18社の引き継ぎを終えました。期待水準をわずかに下回るものの、残り2社も引き継ぎの日程が決まっています。引き継いだ顧客からの評価も良好です。次期は担当顧客から新しい案件を掘り起こすことを期待します。
産休・育休を挟んだ人の例文2本
産休・育休を取ったこと自体を、低い評価の理由にしてはいけません。男女雇用機会均等法第9条と育児・介護休業法第10条は、妊娠・出産や育児休業の取得を理由とする不利益な取り扱いを禁止しています。休業期間は評価対象から外し、勤務した期間の行動と成果で評価するのが基本です。休業期間を賞与や昇給の計算にどう反映するかは、就業規則や賃金規程の定め方によって変わるため、社会保険労務士に確認してください。
- 例48本期は7月に育児休業から復帰し、勤務した3か月間を評価対象としています。復帰後は短時間勤務の中で、課の問い合わせ対応を担当しました。対応件数は勤務時間に見合った水準で、対応の質にも問題はありません。期待水準を満たしています。次期は対応記録をもとに、よくある質問の一覧を整えることを期待します。
- 例49本期は8月から産前休業に入ったため、4〜7月の4か月間を評価対象としています。この期間に担当業務の手順書を整え、後任者への引き継ぎを予定どおり終えました。休業中も業務が止まらなかったのは、この準備があったからです。期待を上回る動きと評価します。
成果は出たが、行動面に課題がある人の例文1本
ここで書かずにおくと、同じ行動が次の期も続きます。成果と行動を分け、それぞれに事実を書きます。
- 例50売上目標に対して達成率128%と、成果面では期待を大きく上回りました。一方で、他部署への依頼を締切の前日に出すことが本期に5回あり、製造部と業務部で残業が発生しています。行動評価の「周囲との協働」はC評価とします。次期は依頼を3営業日前までに出すことを約束事とし、月1回の面談で確認します。
例50のように成果と行動の評価が分かれるときは、コメントを2文に分けます。1文でまとめると「成果は出したが問題もあった」という総括になり、本人はどちらを重く受け取るべきか判断できません。成果の事実と行動の事実に、それぞれ別の文を割り当てます。
低評価者へのコメントは3つの原則で書く
遠慮して曖昧に書けば本人に伝わらず、強く書けば反発や労務トラブルの火種になります。次の3つの原則で書きます。
原則1:人ではなく行動を書く
「責任感がない」「やる気が見られない」は、人そのものへの評価です。書くのは「何をしたか・しなかったか」だけです。「報告書の提出が期限を3回過ぎた」なら、本人も事実として受け止められます。
原則2:改善できる粒度まで分解する
「コミュニケーションを改善すること」では、本人は何を変えればいいのかがわかりません。「週1回、進み具合を上司に口頭で報告する」まで分解すると、明日から行動に移せます。目安は、第三者が見て「できた・できていない」を判定できるかどうかです。
原則3:次の面談で確認できる形にする
改善の期待を書いたら、いつ・誰が・どうやって確認するかまで書きます。確認の予定がないコメントは、書いたまま忘れられます。
| NG表現 | OK表現 |
|---|---|
| やる気が感じられない | 担当案件3件のうち2件で、初回の提案が期限を過ぎた |
| 協調性に欠ける | 課内の定例会議を、本期12回のうち5回欠席した |
| もっと主体的に動いてほしい | 月1件、担当業務の改善案を自分から提出する |
| ミスが多い | 入力ミスが月平均6件あり、うち2件は取引先の指摘で発覚した |
| 今後の頑張りに期待する | 3か月後の面談で、チェックリストの記入状況を一緒に確認する |
評価コメントに書いてはいけない表現は4種類
評価コメントは、社内の記録にとどまるとは限りません。本人が個人情報保護法にもとづいて開示を求めた場合、評価の記録は開示の対象になり得ます。解雇や降格をめぐって労働審判や訴訟になれば、評価シートが証拠として提出されることもあります。
| 種類 | NGの例 | 問題になる理由 |
|---|---|---|
| 人格・性格への言及 | 性格が暗い/責任感がない/この仕事に向いていない | 行動ではなく人格の否定になり、パワーハラスメントの主張の根拠にされやすい |
| 性別・年齢・家族の状況 | 女性らしい気配り/若いのに/子育て中なので無理はさせられない | 評価が属性にもとづくと読まれ、差別的な取り扱いの疑いを招く |
| 健康・休業への言及 | 体調不良が多く頼れない/育休明けで本調子ではない | 病気や休業を理由とした不利益な取り扱いと受け取られる |
| 他者との比較 | ◯◯さんと比べて遅い/同期で一番下 | 絶対評価の根拠にならず、比較された相手の情報も漏れる |
見落としやすいのは、ほめ言葉の形をとった属性への言及です。「女性らしい細やかさ」「若いのにしっかりしている」は、書いた評価者に悪意がないことがほとんどです。「若いのにしっかりしている」は、「入社2年目で、顧客との価格交渉を一人で担当した」と事実に置き換えます。
噂や伝聞も書きません。「他部署から評判が悪いと聞いている」は、評価者自身が確かめた事実ではないからです。
提出前に確認する5項目
- 性格や人柄を評価する言葉が入っていないか
- 性別・年齢・家族・健康・休業に触れていないか
- 他の社員の名前や、他者との比較が入っていないか
- 評価者自身が確認していない噂や伝聞を書いていないか
- 本人の前で、同じ内容を面と向かって説明できるか
評価コメントが機能しなくなる3つの失敗と、その直し方
失敗1:毎年同じ文言が並ぶ
前期のコメントをコピーし、数字だけ変える評価者は少なくありません。よくあるのは、評価者8名・社員60名規模の会社で2年分のコメントを並べると、半数近くの社員が前年とほぼ同じ文面だった、というケースです。
直し方は、コメントの書き出しを「本期の事実」から始めるルールにすることです。事実は毎期違うので、書き出しを事実に固定すると、コピーでは書けなくなります。
失敗2:抽象的で、本人が行動に移せない
「さらなる成長を期待する」「視野を広げてほしい」は、本人が読んでも明日の行動が変わりません。4要素のうち「次期への期待」を、第三者が達成を判定できる粒度で書くルールにします。「視野を広げる」なら、「他部署の定例会議に月1回参加し、気づいた点を課内で共有する」まで書きます。
失敗3:良いことしか書かない
評価者が部下との関係悪化を恐れて、課題を書かないケースです。B評価やC評価なのにコメントはほめ言葉だけ、という状態になり、本人は「なぜこの評価なのか」がわかりません。
対処は、「A評価との差」「期待水準に届かなかった点」を書く欄を、コメント欄の中に設けることです。欄があれば、評価者は空欄のまま出せません。
評価コメントについて人事担当者からよく受ける質問5つ
Q1. 評価コメントは何文字くらい書けばよいですか?
項目別のコメントは1項目あたり80〜150字、総評は200〜400字が目安です。4要素をそろえると、自然にこの範囲に収まります。50字未満のコメントは、4要素のどれかが欠けていることがほとんどです。
Q2. 評価コメントは、本人に見せる前提で書くべきですか?
見せる前提で書きます。開示していない会社でも、開示請求で本人の目に触れる可能性があります。本人に見せられない内容は、そもそもコメントに書くべきではない内容です。
Q3. 評価者によってコメントの量が違ってもよいですか?
上限は自由でかまいませんが、下限は決めておきます。「4要素をすべて含む」「1項目80字以上」のように最低ラインを決めると、評価者ごとの極端な差を防げます。
Q4. 総評はどう書けばよいですか?項目別のコメントとの違いは何ですか?
項目別のコメントが「その項目で何があったか」を書くのに対し、総評は「期全体をどう判断したか」を書きます。総評には、最終的な評価ランクの根拠、期を通じて最も大きかった成果か課題を1つ、次期に最も期待すること1つ、の3点を入れます。
Q5. 生成AIで評価コメントの下書きをつくってもよいですか?
評価者が事実のメモを用意し、それをもとに文章を整える使い方であれば有効です。反対に、事実を入れずに「A評価の営業職のコメント」とだけ指示すると、誰にでも当てはまる文章ができあがります。社員の氏名や評価内容を入力する場合は、社内で利用を認めたツールに限ってください。
評価者に配る前に確かめたい、コメント運用のチェックリスト8項目
評価者研修の資料や、評価シートの記入要領にそのまま転記して使えます。
- □ コメントの型(事実→評価→影響→次期への期待)を評価者全員に共有した
- □ 評価ランクごとの定義と、コメントの重心を示した
- □ 職種ごとに「事実」として書く材料を決めた
- □ 昇格見送り・異動・休職復帰・産育休の場合の評価期間の扱いを決めた
- □ 書いてはいけない表現の一覧を記入要領に載せた
- □ 1項目あたりの最低文字数を決めた
- □ 提出後に人事担当者がコメントを確認する工程を入れた
- □ コメントに書いた期待を、次の面談で確認する日程を決めた
8項目のうち、1つ目・2つ目・5つ目は、評価者に資料を渡せば整います。時間がかかるのは4つ目と7つ目です。どちらも社員数や評価者の人数、これまでの運用によって落としどころが変わります。ここから先は、自社の状況を見ながら判断が分かれるところです。
まずはあなたの会社の前期の評価シートから、B評価の社員のコメントを3件だけ抜き出してみてください。4要素のうち欠けている要素を数えると、今期の評価者研修で最初に伝えるべきことが見えてきます。
