看護師の人事評価シートは、「行動(コンピテンシー)40点・目標(MBO)20点・看護実践能力(スキル)40点」の3区分、100点満点でつくると、病院でもクリニックでも回せます。この記事は、看護師を5〜80名ほど抱える病院・クリニックで、評価シートを一からつくる、または見直す事務長・看護部長・院長に向けて書いています。
載せているのは、医療機関の支援で使った形をもとに、氏名や数字を架空に置き換えたサンプルです。項目の一覧、記入例、点数からランク・昇給への換算まで、あなたの病院やクリニックの叩き台としてそのまま使える形にしています。
看護師の人事評価シートの完成形|3区分・100点満点
| 区分 | 配点 | 評価するもの | 項目数 |
|---|---|---|---|
| コンピテンシー | 40点 | 看護師として大事にしてほしい行動 | 3項目 |
| 目標(MBO) | 20点 | 期初に決める数値の目標 | 1〜2項目 |
| スキル | 40点 | 看護実践能力(クリニカルラダーの項目) | 14項目 |
コンピテンシーとは、成果を出す人に共通する行動の特徴のことです。MBO(目標管理)は、期初に本人と上司で目標を決め、期末に達成度を評価するやり方を指します。クリニカルラダーは、看護師の能力を段階ごとに示した「はしご」のような物差しです。
3つに分けるのには理由があります。スキルだけで評価すると、経験年数が長い人ほど点が上がり、若手の頑張りが見えません。目標だけだと、数字にしにくい日々のケアが評価から抜け落ちます。そこで、病院として大事にしたい行動を「コンピテンシー」で見て、3つのバランスで1人を評価します。
評価は半期ごとに行います。サンプルでは評価期間を4月〜9月とし、本人の自己評価、主任・師長による1次評価、看護部長や院長による2次評価の3段階で点をつけます。途中の7月ごろに中間評価を入れ、ずれを早めに直します。
看護師の人事評価シートの項目例|スキル14項目はクリニカルラダーに合わせる
スキルの14項目は、日本看護協会の「看護実践能力習熟段階」(いわゆるクリニカルラダー)の構成に合わせています。2025年の改訂で、看護実践能力は「専門的・倫理的・法的な実践能力」「臨床実践能力」「リーダーシップとマネジメント能力」「専門性の開発能力」の4つに整理されました。院内教育のラダーと評価シートの言葉をそろえておくと、研修と評価が別々に動くことを防げます。
| 能力 | 項目 | 評価の観点 |
|---|---|---|
| 専門的・倫理的・法的な実践能力 | 責務に基づく実践 | 自分の判断や行為に責任を持ち、役割と能力に応じた看護を行っている |
| 倫理的実践 | 生命や権利、多様性、プライバシーを尊重して判断・行動している | |
| 法的実践 | 法令・ガイドライン・院内規程に沿って看護を行っている | |
| リーダーシップとマネジメント能力 | 業務の委譲・移譲と管理監督 | 看護補助者への業務の委譲や他職種への移譲を行い、その実施状況を確認している |
| 安全な環境の整備 | リスクを評価し、医療安全・感染予防・災害対応に取り組んでいる | |
| 組織の一員としての役割発揮 | 業務の優先度と時間を管理し、チームワークの向上に動いている | |
| 臨床実践能力 | ニーズをとらえる力 | 情報を集めてアセスメントし、看護問題の優先順位を判断している |
| ケアする力 | 患者の状況に合わせた看護計画を立て、実施・評価・修正している | |
| 意思決定を支える力 | 正確な情報提供と対話で、患者がその人らしく選べるよう支えている | |
| 協働する力 | 医師や多職種と情報を共有し、相談・提案しながら看護を行っている | |
| 専門性の開発能力 | 看護の専門性の強化と社会貢献 | 専門職団体の活動などを通じて、看護の質を高める活動に関わっている |
| 看護実践の質の改善 | 看護の成果を振り返って分析し、後輩や学生の指導にも関わっている | |
| 生涯学習 | 自分の能力の開発に責任を持ち、学び続けている | |
| 自身のウェルビーイングの向上 | 心身の健康を保ち、質の高い看護を続けられる状態をつくっている |
点数は4段階です。サンプルでは「3」を「期待どおりにできている」、「4」を「期待を超えて、周りにも良い影響を与えている」としています。ラダーのレベル(新人〜Ⅳ)ごとに期待する水準を変えたい場合は、等級ごとに観点の文章を1行ずつ書き分けます。
コンピテンシーは3項目に絞る
コンピテンシーは、当社で使っている75項目の一覧から選んでいます。一覧は「自己の成熟性」「組織・チームワーク」「業務遂行」「リーダー」など8つのグループに分かれています。全部を使う必要はなく、病院の理念や今期の方針に近いものを3つ選びます。
| 項目 | 見る行動 |
|---|---|
| 患者との信頼関係構築 | 患者アンケートの満足度、患者・家族とのコミュニケーション |
| 自己研鑽 | 最新の医療情報の習得、院内外の研修への参加 |
| チーム精神の発揮 | 自分から先に動く、業務改善を進める、会議で建設的に発言する |
3項目に絞るのは、評価する側の負担を抑えるためです。項目が多いほど1つずつの重みが薄くなり、看護師から見て「何を頑張れば評価されるのか」が分かりにくくなります。
目標(MBO)は「件数」で6段階の物差しをつくる
目標は、期初に数字で決めます。サンプルでは「業務改善提案を年間5件以上提出する」を目標にし、結果を6段階で点数にしています。
| 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | 5点 | 6点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3件以下 | 4件 | 5件 | 6件 | 8件 | 10件以上 |
3点が「目標どおり」です。上に3段階の余白をつくると、目標を超えた人をきちんと評価できます。看護師の目標で数字にしやすいのは、業務改善提案の件数、院内研修や伝達講習の回数、患者満足度アンケートの点数、委員会での取り組みの件数などです。
1つだけ避けたいのが、「インシデント件数を減らす」という目標です。件数を減らすと評価が上がる仕組みにすると、報告そのものが出てこなくなります。医療安全は、スキルの「安全な環境の整備」で行動として評価します。
看護師の評価シートの記入例|目標・中間・自己評価・1次評価
項目が決まっても、コメント欄が空欄だらけでは面談で話すことがありません。サンプルの「患者との信頼関係構築」の記入例を、そのまま載せます。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 目標設定(期初) | 患者一人ひとりの声に耳を傾け、入院時から退院後を見据えたコミュニケーションを実践する。患者満足度アンケートで「説明がわかりやすい」の項目4点以上を維持する。 |
| 中間コメント(上司) | 挨拶・声かけを積極的に行っており、患者からの評判も良好。引き続き退院指導の丁寧さを意識してほしい。 |
| 自己評価コメント | 入院時に患者の不安を取り除くよう、説明内容を分かりやすく工夫することができた。退院指導においても個別性を意識したアプローチができたと感じる。 |
| 1次評価コメント | 患者からの信頼は厚く、丁寧な関わりが評価できる。今後は家族へのフォローも意識してさらに高みを目指してほしい。 |
| 点数 | 自己評価4/1次評価3/2次評価3 |
この例では、本人は4、上司は3をつけています。自己評価と上司の評価がずれたときは、面談で「4をつけた根拠になる場面」を本人に話してもらいます。ずれをそのままにすると、点数への不満だけが残ります。
あわせて読みたいランク別・職種別に使える評価コメントの例文
スキル項目の記入例も1つ載せます。「安全な環境の整備」の自己評価は「インシデントの未然防止に向けてリスクアセスメントを丁寧に実施し、環境整備も積極的に行った。感染対策も徹底できた」。1次評価は「医療安全への意識が高く、チームへの注意喚起も自発的に行っている点を評価する」で、点数は自己・1次・2次ともに4です。4をつけるときは、このように「周りへの働きかけ」まで書いておくと、3との違いが本人にも伝わります。
点数の出し方|100点満点に換算してランクと号俸につなぐ
各項目の点数は、区分の配点に比例させて100点満点に換算します。たとえばコンピテンシーは40点を3項目で分けるので、1項目あたり最大13.3点です。4段階の「3」なら10点、「4」なら13.3点になります。スキルは40点を14項目で分けるので、1項目あたり最大2.9点です。
| 区分 | サンプルの1次評価 | 配点 |
|---|---|---|
| コンピテンシー(3項目:3・3・4) | 33.3点 | 40点 |
| 目標(業務改善提案6件=4点) | 6.7点 | 20点(この例は1項目・ウェイト50%) |
| スキル(14項目) | 30.7点 | 40点 |
| 合計 | 70.7点 | 100点 |
合計点は、次の表でランクと号俸(給与表の1段のこと)に置き換えます。70.7点の看護師はAランクで、次の期に2号俸上がります。
| 評価点 | ランク | 号俸の増減 |
|---|---|---|
| 0〜45点 | D | −1 |
| 46〜55点 | C | 0 |
| 56〜65点 | B | +1 |
| 66〜75点 | A | +2 |
| 76〜85点 | S | +3 |
| 86点以上 | S+ | +4 |
点数は小数まで出るため、ランクの境目に近い人は、2次評価者が総評とあわせて最終判断します。号俸の1段をいくらにするかは、看護師の給与表の設計しだいです。
あわせて読みたい評価ランクを昇給につなげる賃金テーブル・号俸制の設計
看護師の人事評価シートをつくる5ステップ
- 配点を決める。迷ったら40・20・40から始めます。ラダー研修が定着している病院はスキルを50点に、理念を浸透させたい時期はコンピテンシーを50点にするなど、方針で動かします。
- スキル項目をラダーに合わせる。院内ラダーがあれば、その項目をそのまま使います。なければ上の14項目を叩き台にします。
- コンピテンシーを3つ選ぶ。病院の理念や今期の方針と結びつく行動を選びます。看護部長と事務長だけで決めず、師長の意見を1回は聞きます。
- 目標の物差しをつくる。「3点=目標どおり」を決めてから、上下の段階の数字を決めます。
- ランクと号俸の対応表を決め、試しに1回評価する。本番の前に、師長が2〜3名を試しに評価し、点数の分布と評価にかかる時間を確かめます。
最初から完璧なシートを目指すと、つくるだけで1年が過ぎます。7割の出来で一度回し、1回目の評価が終わった時点で項目と物差しを直すほうが、看護師にも定着しやすくなります。
あわせて読みたい評価制度を7割の完成度で動かし始めるための作り方の手順
クリニックで使うときの置き換え|看護師5〜15名なら項目を半分に
サンプルは入院のある病院を前提にしています。外来中心のクリニックで使うときは、次のように置き換えます。
| 病院向けのサンプル | クリニックでの置き換え |
|---|---|
| 入院時の説明・退院指導 | 診察前後の説明、検査・処置の説明、電話での問い合わせ対応 |
| 看護補助者への業務の委譲 | 医療事務・受付との役割分担と引き継ぎ |
| 医療ソーシャルワーカー・リハビリとの協働 | 医師・医療事務・検査技師との連携、紹介先病院とのやりとり |
| 看護の専門性の強化と社会貢献 | 外すか、「院内勉強会の開催」に置き換える |
| スキル14項目 | 7〜8項目に絞る |
| 1次評価(師長)・2次評価(看護部長) | 院長が1人で評価する場合も、自己評価と面談は必ず挟む |
クリニックでは、院長が1人で全員を評価することがよくあります。看護師10名に14項目をつけると、1回で140か所です。面談を1人30分とすると、それだけで5時間かかります。項目を半分にしても、評価の差は十分につきます。あなたのクリニックで院長以外に評価できる人がいるなら、主任を1次評価者にすると負担が分散します。
よく起きる失敗|スキル14項目が全員「3」になる
医療機関も含めて8年で200社以上の評価制度に関わってきましたが、看護師の評価でいちばん多いつまずきは「全員3」です。たとえば看護師40名の病院で、師長1人が12名を評価すると、スキルだけで14項目×12名=168か所に点をつけることになります。1か所ずつ根拠を考える時間はなく、迷った項目はすべて「3」になります。
その結果、合計点はほぼ全員が60点台に集まり、ランクはBかA、号俸の差は1段しかつきません。頑張った看護師ほど「何をしても同じ」と感じ、次の期の自己評価が雑になります。
打ち手は、項目ごとに「4をつける条件」を1行で書いておくことです。たとえば「安全な環境の整備」なら、「チームへの注意喚起を自分から行い、インシデントの予防策を提案した」ときに4、と決めます。条件が書いてあれば、評価者は迷ったときに3へ逃げずにすみます。
運用前のチェックリスト|7項目
あなたの病院・クリニックのシートが、次の7つを満たしているか確かめてください。
- 3区分の配点が決まり、合計が100点になっている
- スキル項目の言葉が、院内ラダーや研修の言葉とそろっている
- コンピテンシーが3〜5項目に絞られ、理念や方針と結びついている
- 目標に「3点=目標どおり」の基準があり、インシデント件数を減らす目標が入っていない
- 各項目に「4をつける条件」が1行書いてある
- 評価点からランク、ランクから号俸への対応表が決まっている
- 評価者1人あたりの評価人数と、面談にかかる時間を見積もった
サンプルの実物(Excel)をお渡ししています
この記事で紹介した評価シートは、点数の自動計算、75項目のコンピテンシー一覧、ランクの換算表まで入ったExcelです。実物は、業種・職種別の人事評価シートのサンプルページからお申し込みいただけます。送信後すぐに、ダウンロード先をメールでお送りします。介護職員・医療事務・理学療法士・保育士など、同じ医療・介護・福祉分野の職種のシートもあわせて受け取れます。
ただし、配点を40・20・40のままにするか、ラダーの何項目を使うか、号俸の1段をいくらにするかは、病院の規模や院内教育の仕組み、今の給与表によって答えが変わります。ここから先は、各院の状況を見ながら一緒に決めていく部分です。福岡を中心に九州で、人事評価制度の設計から運用までをお手伝いしています。
著者プロフィール
野村 幸太(のむら こうた)/株式会社クリアマネジメント 代表
株式会社あしたのチームで福岡支社の立ち上げに参加し、広島・福岡の支社長、西日本エリアマネージャーを歴任。8年間で200社を超える人事評価制度の構築・運用を支援しました。2022年に福岡でクリアマネジメントを設立し、従業員30〜150名の中小企業を中心に、人事評価制度・組織づくり・採用・AI活用を支援しています。
