人事評価の甘辛調整は、ズレの原因を「評価者の癖」「職種の違い」「基準のあいまいさ」の3つに分け、それぞれ別の方法で直すと、後から点数を書き換えずに済みます。とくに営業職と事務・管理職のばらつきは、評価後に分布を揃えるより、職種ごとに「何点でAか」の線を変えるほうが納得を得やすくなります。この記事は、従業員30〜150名の会社で、部署や評価者によって評価が甘い・辛いと感じている経営者・人事担当者に向けて書いています。
人事評価の甘辛調整とは|評価の付け方のズレを揃える作業
甘辛調整とは、評価者や部署によって評価の付け方が「甘い(高めにつける)」「辛い(低めにつける)」と偏っているのを、同じ物差しに揃える作業です。評価の結果は昇給や賞与に直結するため、偏りが残ると「どの上司の下にいるか」で給与が変わってしまいます。
甘辛調整のやり方は、大きく2つあります。評価がついたあとに分布を見て揃える「分布で揃える方法(相対評価に近い)」と、評価の前に職種ごとの基準を変えておく「基準で揃える方法(絶対評価のまま)」です。どちらを使うかは、ズレの原因によって変わります。
甘辛が起きているかは、3つの数字で確かめられる
「甘い気がする」で調整を始めると、調整そのものが社長の感覚になります。先に次の3つを数字で確かめます。
| 確かめる数字 | 甘辛を疑う目安 | 見えてくること |
|---|---|---|
| 部署ごとの平均点(5段階なら) | 部署間で0.5以上の差がある | 部署や職種の構造的なズレ |
| 評価者ごとのA以上の割合 | ある評価者だけ50%を超える、または10%を切る | 評価者の癖(甘い・辛い) |
| 評価者ごとの点のばらつき | 部下全員がほぼ同じ点(Bばかりなど) | 差をつけない癖(中心化) |
この3つは、評価結果をExcelに並べれば30分ほどで出せます。あなたの会社の前回の評価結果で、まず一度出してみてください。集計表のつくり方は、次の記事で式つきで紹介しています。
あわせて読みたい人事評価の結果をExcelの4つの表で分析し、分布の偏りを見つける方法
甘辛の原因は3つに分けられる|評価者・職種・基準
| 原因 | 起きていること | よくある例 | 直し方 |
|---|---|---|---|
| ① 評価者の癖 | 評価者によって甘くつける、辛くつける、差をつけない | 課長Aの部下は8割がA以上、課長Bの部下はBとCだけ | 評価者会議で根拠をそろえる |
| ② 職種の違い | 職種によって「満点」の意味が違う | 営業は目標に届かず点が伸びない。事務は「ミスなし」で高得点になる | 職種ごとにランクの線を変える |
| ③ 基準のあいまいさ | 評価項目の言葉が抽象的で、人によって解釈が違う | 「主体性がある」に何点をつけるかが評価者ごとにバラバラ | 点数ごとの状態を1行で書く |
実際には、3つが重なっていることがほとんどです。順番としては、③の基準を直し、②の職種の線を決め、最後に①の評価者会議で残ったズレを揃えると、毎期の調整が少しずつ軽くなります。
原因別の直し方|甘辛調整の具体的なやり方
① 評価者の癖は、評価者会議で根拠をそろえる
評価者会議(キャリブレーションとも呼ばれます)は、評価者が集まって、互いのつけた点数と根拠を突き合わせる場です。従業員50名・評価者5名の会社なら、1回1時間〜1時間半で回せます。
- 評価者全員が、1次評価を締め切りまでに入力する
- 人事担当が、評価者ごとのA以上の割合と平均点を1枚にまとめる
- A以上とD以下をつけた人だけ、評価者が「その点をつけた場面」を1つずつ話す
- 根拠が弱い点は、評価者本人が自分で修正するかを決める
- 会議で変えた点数と理由を記録し、本人へのフィードバックに使う
ポイントは、点数を他人が書き換えるのではなく、評価者本人が根拠を見直して修正することです。上の人が後から変えると、次の期から評価者が真剣に点をつけなくなります。
② 営業と非営業のズレは、職種ごとに「何点でAか」を変える
営業職にとって100点は、高い数字目標を達成することです。届かないことも多く、点は伸びにくくなります。一方で、経理・総務・カスタマーサポートなどの100点は「ミスなく、期日どおりに回す」ことで、期待される当たり前の水準でもあります。同じ物差しで測ると、事務・管理部門にA評価が集まりやすくなります。
そこで、評価点からランクに変える線を、職種ごとに変えます。
| 評価ランク | 営業職 | 事務・管理職 |
|---|---|---|
| S | 90点以上 | 95点以上 |
| A | 65点以上 | 75点以上 |
| B | 50点以上 | 55点以上 |
| C | 35点以上 | 40点以上 |
| D | 34点以下 | 39点以下 |
営業職は65点でA、事務・管理職は75点でAです。これは営業を優遇しているのではなく、「100点を取る難しさの差」を線の差として制度に書いたものです。職種のグループは2〜4つまでにすると運用できます。
線を決める前に、職種ごとに「この職種で期待どおり(B)とはどんな状態か」を1〜2行で書いておくと、社員に説明するときの根拠になります。営業の目標そのものの難しさをそろえたい場合は、目標設定の段階から見直します。
あわせて読みたい職種ごとに難しさをそろえた目標設定の書き方と例文
③ 基準のあいまいさは、点数ごとの状態を1行で書く
「主体性」「協調性」といった項目は、評価者によって解釈が分かれます。5段階なら、少なくとも「4(期待以上)」と「2(期待以下)」をつける条件を1行ずつ書いておきます。たとえば「主体性」なら、4は「指示がなくても、担当外の問題を見つけて上司に提案した」、2は「担当業務でも、指示されるまで動かないことが月に2回以上あった」のように、場面で書きます。
無料サンプル成果目標を6段階の基準で書いた評価シートのサンプル(16職種・Excel・無料)
分布で揃えるか、基準で揃えるか|判断の目安
| 比べる点 | 分布で揃える(相対評価に近い) | 基準で揃える(絶対評価のまま) |
|---|---|---|
| やり方 | 「A以上は全体の20%まで」などの枠を決め、評価後に調整する | 職種ごとのランクの線や、点数ごとの状態を評価前に決める |
| 向いている会社 | 賞与原資が決まっていて、ランクの人数を管理したい | 社員の頑張りを点数どおりに評価したい |
| 起きやすい問題 | 優秀な人が集まった部署でも、誰かを下げなければならない | 基準をつくるまでに手間がかかる |
| 社員の受け止め方 | 「他人との比較で決まる」と感じやすい | 「何をすればAか」が見えるので納得しやすい |
30〜150名の会社では、まず基準で揃え、それでも残るズレを評価者会議で直す形がなじみやすくなります。分布の枠は、賞与原資をどうしても守る必要がある場合に、補助的に使うくらいにとどめます。あなたの会社でどちらを主にするかは、評価結果を賞与と昇給のどちらに強く結びつけているかで決まります。
あわせて読みたい完璧を目指さずに評価制度を動かし始める作り方の手順
よく起きる失敗|社長が評価のあとで点数を書き換え、評価者が本気でつけなくなる
等級や評価の制度づくりで200社以上に関わってきた中で、甘辛調整のつまずきとしていちばん多いのがこの形です。たとえば従業員60名の会社で、課長5名が1次評価をつけたあと、社長が「この部署は甘い」と感じた12名の点数を、理由を伝えずに1段ずつ下げます。
翌期、課長たちは「どうせ社長が直す」と考え、全員にBをつけて提出するようになります。評価の差がなくなり、社長の調整の手間はかえって増えます。部下への評価面談でも、課長は「上が決めたことだから」としか説明できません。
調整が必要なら、評価者会議で評価者本人に根拠を話してもらい、本人に直してもらいます。どうしても上で変える場合は、変えた理由を評価者に返すところまでを手順に入れておきます。
甘辛調整を始める前のチェックリスト7項目
あなたの会社で次の7つを確認してから、調整のやり方を決めてください。
- 部署ごとの平均点と、評価者ごとのA以上の割合を数字で出した
- ズレの原因が、評価者・職種・基準のどれにあたるかを分けた
- 職種のグループを2〜4つに分けた
- 職種ごとに「期待どおり(B)」の状態を1〜2行で書いた
- 各項目に「4をつける条件」「2をつける条件」を書いた
- 評価者会議の日程を、1次評価の締め切りの1週間後に入れた
- 点数を変えたときに、理由を評価者と本人に返す手順を決めた
どこまで揃えるかは、評価を何に使うかで変わります
ここで紹介した線の例は、営業職と事務・管理職が中心の会社を想定しています。技術職や現場職が多い会社、評価を昇給だけに使うか賞与にも使うかによって、線の引き方も評価者会議の重さも変わります。ここから先は、今の評価結果の分布を見ながら判断が分かれるところです。
福岡を中心に九州の会社で、評価基準づくりから評価者会議の進行まで一緒に行っています。「今期の評価結果を見てほしい」という段階からでもかまいません。人事評価制度づくりの進め方と費用をご覧いただくか、お問い合わせフォームからご連絡ください。
著者プロフィール
野村 幸太(のむら こうた)/株式会社クリアマネジメント 代表
福岡県を拠点に、中小企業向けの人事評価制度構築・組織設計・管理職育成を支援。支援実績は製造業・IT・小売・サービス業など多業種にわたる。「評価制度は戦略ツールである」という信念のもと、現場で本当に機能する人事制度の構築を専門とする。経営者・人事担当者向けのセミナー登壇・社内研修の設計・実施も多数。
