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営業職と非営業職の「評価の甘辛」はどう直す?職種別・絶対評価基準で解決する人事評価の調整法

人事評価

はじめに

「うちの会社、なぜか事務や管理部門だけ評価が高くなりやすい気がする…」

人事担当者や経営者の方から、こうした声をよく耳にします。

しかしよく考えると、これはある意味、当然の構造的問題でもあります。

営業職は売上・契約件数・達成率など、数字で成果が可視化されます。目標に届かなければ評価は下がる。100点を取ることが難しい、“常に挑戦している職種” です。

一方、事務・管理・バックオフィス部門に期待されるのは何でしょうか。「ミスなく処理する」「締め切りを守る」「問題なく業務を回す」——つまり、100点を取ることが”当たり前”として期待される職種です。

この根本的な違いが見落とされたまま同じ評価基準で運用すると、「100点が当たり前の人」と「100点を目指している人」が同じものさしで測られるという歪みが生まれます。結果として、事務・管理部門は高評価が取りやすく、営業は厳しい評価にさらされやすい——これが「評価の甘辛問題」の正体です。

この問題を解決する具体的な方法が、「職種ごとに評価ランクの閾値(点数の基準)を変える」絶対評価アプローチです。

この記事では、

を体系的に解説します。読み終えた後には、自社の評価制度をどこから手直しすべきか、明確なイメージが持てるようになります。


1. なぜ「100点が当たり前の職種」と「100点を目指す職種」で評価の甘辛が生まれるのか?

職種によって「満点の意味」が根本的に違う

人事評価における最大の盲点は、職種によって「良い仕事」の定義がまったく異なるという点です。

営業職にとっての100点とは、高い目標を達成すること。目標設定の時点で「達成が難しいライン」が設定されるため、100点を取ること自体が挑戦であり、評価の差がつきやすい構造になっています。

一方、経理・総務・人事・カスタマーサポートなどの非営業職にとっての100点とは、ミスなく、滞りなく、期日通りに業務を遂行することです。これは「期待される最低ライン」であり、達成して当然の水準です。

職種100点の意味評価の難易度
営業職高い目標の達成(挑戦的)高い・差がつきやすい
非営業職(事務・管理)ミスなく安定的な業務遂行(当然)低い・甘くなりやすい

「問題がない=優秀」という評価者の錯覚

この構造的差異を理解していない評価者は、「業務が滞りなく回っている=高評価」という錯覚に陥りがちです。

本来「期待通り=B評価」であるべきところが、「問題が起きなかった=A評価」という誤った変換が評価者の中で起きてしまう。これが**寛大化傾向(評価が甘くなる心理バイアス)**と組み合わさって、事務・管理部門の評価点数を押し上げます。

同じ「80点」でも意味が全く違う

たとえば、評価シートで営業担当者が80点、事務担当者が80点だったとします。一見同じ評価に見えますが、実態はまったく異なります。

  • 営業の80点:厳しい数字目標に挑んで、高い壁をある程度乗り越えた結果
  • 事務の80点:当たり前のことを当たり前にこなした結果

同じ点数でも、その「重さ」が職種によって根本的に違う。 これが評価の甘辛の本質です。同じ閾値でAランクを決めてしまうと、事務部門のA評価者が構造的に多くなり、昇給・昇格の恩恵が偏ります。


2. 解決策の本質:「職種ごとにAランクの点数の閾値を変える」

相対評価(分布管理)ではなく絶対評価で解決する

評価の甘辛対策として「評価分布を管理する(A評価は全体の20%まで)」という相対評価アプローチを採用する企業もあります。しかしこの方法には問題があります。

  • 優秀な人材が集中している部門でも、強制的に評価を下げなければならない
  • 「頑張っても報われない」という感覚が生まれやすい
  • 評価の根拠が「他者との比較」になり、個人の成長が見えにくくなる

絶対評価アプローチは、「何点を取ればAになるか」という基準そのものを職種ごとに変える方法です。 個人の頑張りを正当に評価しながら、職種間の甘辛を構造的に補正できます。

職種別・絶対評価基準の考え方

基本的な考え方はシンプルです。

成果を生むことが求められる営業職は、Aランクの閾値を低めに設定する。 ミスなく安定的な業務遂行が当たり前の非営業職は、Aランクの閾値を高めに設定する。

具体的なイメージはこうなります。

評価ランク営業職の閾値非営業職の閾値
S90点以上95点以上
A65点以上75点以上
B50点以上55点以上
C35点以上40点以上
D34点以下39点以下

営業職は65点でAになれる。非営業職は75点取らないとAにならない。

これは営業職を「優遇」しているのではありません。「100点を取ることの難易度の差」を、閾値の差として正直に制度に反映しているのです。

なぜこの設計が公平なのか?

「営業の方が低い点数でAになれるのはおかしい」と感じる方もいるかもしれません。しかし、以下のように考えると納得できます。

営業職の評価点数60点は、「高難度の目標に対して6割を達成した状態」です。これは十分に期待を超えた成果と言えます。

一方、非営業職の評価点数60点は、「ミスなく安定的に仕事をする、という当たり前のことに対して6割しか達成していない状態」です。これは期待通りとは言えません。

同じ60点でも、仕事の性質が違えば、その意味はまったく異なる。 閾値の差は、この「意味の差」を制度として正直に表現したものです。


3. 具体的な設計ステップ

STEP 1:職種・役割グループを定義する

まず、閾値を変えるグループを決めます。

グループ区分対象職種の例閾値の方向性
営業・販売職法人営業、個人営業、ルート営業低め設定
専門技術職エンジニア、デザイナー、開発職中程度
管理・サポート職総務、経理、人事、CS高め設定
製造・現場職生産ライン、品質管理、物流高め設定

グループ数は2〜4区分が運用しやすいラインです。

STEP 2:各職種の「期待水準」を言語化する

閾値を設定する前に、「この職種で100点とは何か」「期待を超えるとはどういう状態か」を言語化することが重要です。これが閾値設定の根拠になります。

【営業職の期待水準の例】

点数帯状態の定義
90点以上目標を大幅に超え、チームや組織への波及効果もあった
65〜89点目標を上回り、期待以上の成果を上げた
50〜64点おおむね目標通りの成果を上げた
35〜49点目標をやや下回ったが、改善の兆しが見られる
34点以下目標を大きく下回り、改善が見られない

【非営業職の期待水準の例】

点数帯状態の定義
95点以上業務の完全遂行に加え、仕組み改善・後輩育成など組織貢献が顕著
75〜94点安定的な業務遂行に加え、改善提案・効率化など期待を超える行動があった
55〜74点ミスなく安定的に業務を遂行した(期待通り)
40〜54点一部ミスや遅延があり、期待をやや下回った
39点以下ミスや遅延が繰り返され、業務遂行に問題がある

この定義を評価者・被評価者の双方に事前に共有することが、制度の透明性と納得感を生みます。

STEP 3:評価点数の算出方法を整備する

絶対評価で運用するためには、評価点数の算出根拠を明確にする必要があります。

代表的な方法は以下の2つです。

① 目標達成率を点数に換算する(営業職向け)

目標達成率換算点数の目安
120%以上90〜100点
100〜119%70〜89点
80〜99%55〜69点
60〜79%40〜54点
60%未満39点以下

② 行動評価項目をチェックリスト化する(非営業職向け)

評価項目を「業務遂行の質」「正確性・期日遵守」「改善・提案行動」「チームへの貢献」など複数軸で設定し、各項目を点数化して合算します。非営業職は「当たり前の業務遂行」だけでは75点に届かないよう、改善・貢献系の項目に点数ウェイトを置く設計にすることがポイントです。

STEP 4:評価調整会議(キャリブレーション)で評価者の解釈を揃える

閾値と点数算出方法を整備しても、評価者によって点数の付け方に差が出ることは避けられません。半期に一度、評価者を集めた調整会議を実施し、以下を確認します。

  • 同じグループ内でA評価になった人の根拠を評価者が言語化できるか
  • 「問題がなかったからA」という感情評価が混入していないか
  • 点数の算出根拠(具体的な行動・成果)が明示されているか

この会議を繰り返すことで、評価者の基準が組織全体で揃っていきます。

STEP 5:処遇テーブルはランク連動で統一する

点数の閾値は職種によって異なりますが、同じランク(A評価)であれば、職種に関わらず同等の処遇が得られる設計にします。

例:営業職Aランク=昇給8,000円、管理職Aランク=昇給8,000円

「Aランクの取りやすさは違うが、Aランクを取ったときの価値は同じ」という設計により、どの職種でも公平に報われる仕組みが完成します。

※だだし、職種別に昇給ピッチを変え、A評価の処遇反映も変える運用ももちろん可能です。


4. 事例・実践例

事例①:小売業(従業員60名)

課題: 販売・営業スタッフは数字で厳しく評価される一方、本部の事務・管理スタッフは「大きなミスがない」だけでA評価が続出。「100点を目指して必死に数字を追っている自分たちより、100点が当たり前の事務の人の方が評価が高い」という営業スタッフの声が人事に届き、問題視されることに。

取り組み: 営業職と事務・管理職で評価ランクの閾値を分離。営業職はA=65点以上、事務・管理職はA=75点以上に設定。事務・管理職の評価項目に「業務改善提案」「マニュアル整備」「後輩サポート」などの加点項目を追加し、75点超えには”当たり前以上の貢献”が必要な設計に変更。

結果: 事務部門のA評価比率が適正化され、営業・事務双方の評価分布が揃った。営業スタッフへのサーベイで「評価への納得感」が前期比15ポイント上昇。事務スタッフからも「何をすれば点数が上がるか分かった」という声が増え、業務改善提案件数が前年比1.8倍に。


事例②:サービス業(従業員45名)

課題: 現場スタッフ(接客・営業)と内勤スタッフ(予約管理・経理)が同じ閾値で評価されており、内勤スタッフの評価が毎期高止まり。優秀な現場スタッフが「自分たちは常に数字のプレッシャーにさらされているのに、内勤の人はミスなくこなすだけで同じ評価になる」と感じ、2年間で4名が離職。

取り組み: 現場・営業系はA=63点以上、内勤・管理系はA=76点以上に閾値を設定。内勤系の評価シートを刷新し、「定型業務の正確な遂行」は55〜74点帯(B評価)として明文化。76点以上には「業務フロー改善」「コスト削減提案」「他部門サポート」などの貢献行動が必要と定義。

結果: 現場スタッフの評価が適正に上がり、離職率が翌年度に半減。内勤スタッフも「改善行動がないとAは取れない」という意識に変わり、自発的な業務改善が増加。組織全体の生産性向上にも波及した。


5. よくある誤解・注意点

誤解①「営業の方が低い点数でAになれるのは不公平」

→ 逆です。 営業職が65点でAになれるのは優遇ではなく、「65点を取ること自体の難易度が、非営業職の75点より高い」という事実を制度に反映しているだけです。同じ土俵で戦わせることの方が、実態として不公平です。

誤解②「事務部門の点数基準を上げるとモチベーションが下がる」

→ 正しく設計すれば逆効果にはなりません。 重要なのは「何をすれば点数が上がるか」を明文化することです。「ミスゼロは55〜74点。そこから改善提案・育成貢献で加点されて75点超えでAになれる」と明示することで、事務スタッフは努力の方向性が明確になり、自律的な行動が促されます。

誤解③「絶対評価にすると全員がAになってしまう」

→ 閾値設定が適切であれば問題ありません。 「全員Aになってしまう」とすれば、それは閾値が低すぎるか、点数算出の基準が甘すぎるケースです。「本当にAに値する行動・成果とは何か」を言語化し、評価項目に正しく反映させることが、絶対評価を機能させる最大のポイントです。

注意点:閾値変更は必ず全員に事前説明を

職種別に閾値を変えることは、従業員にとっては大きな制度変更です。特に非営業職の社員には「なぜ自分たちの閾値が高いのか」を丁寧に説明しなければ、「自分たちは不利に扱われている」という誤解が生まれます。

「閾値の差は優遇・冷遇ではなく、仕事の性質の違いを正直に反映したものである」「同じAランクを取れば、処遇は職種に関わらず同等である」という2点を、導入前に全社・部門別で説明する場を必ず設けましょう。


まとめ

この記事のポイントを整理します。

  • 「100点が当たり前の非営業職」と「100点を目指す営業職」は、仕事の性質が根本的に違う。同じ閾値で評価することに無理がある
  • 解決策は評価分布を管理する相対評価ではなく、「職種ごとにAランクの点数の閾値を変える」絶対評価アプローチ
  • 営業職は閾値を低め(例:65点以上でA)、非営業職は閾値を高め(例:75点以上でA)に設定することで、難易度の差を制度に反映する
  • 非営業職の「当たり前の業務遂行はB評価」を明文化し、A評価には改善・提案・育成などの”期待を超える行動”が必要と定義することが重要
  • 同じAランクを取れば処遇は職種問わず同等にすることで、「公平に報われる組織」が実現する
  • 制度変更時の従業員への丁寧な説明と透明性の確保が、納得感を生む最大の鍵

評価の甘辛を放置すると、数字で評価される営業人材のモチベーション低下・離職が静かに進み、気づけば「頑張った人が報われない組織」ができあがります。「うちの評価、部門によって不公平かも」と感じたなら、今が見直しのタイミングです。


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【著者プロフィール】

組織・人材開発コンサルタント

中小企業を中心に、組織設計・リーダー育成・採用戦略の支援を行う。支援実績は製造業・IT・小売・サービス業など多業種にわたる。「評価制度は戦略ツールである」という信念のもと、現場で本当に機能する人事制度の構築を専門とする。経営者・人事担当者向けのセミナー登壇・社内研修の設計・実施も多数。